ヒガシニホントカゲは、全長16〜25cmほどの日本東部を代表するトカゲです。金属光沢のあるツルツルの鱗と、幼体の頃だけ現れる鮮やかな青いしっぽが特徴で、庭先や石垣で見かける機会も多い身近な爬虫類です。長らくニホントカゲと同じ種として扱われてきましたが、2012年に分子系統解析で別種として記載され、和名がヒガシニホントカゲに定められました。境界となるのはおおむね若狭湾から琵琶湖・和歌山にかけての中央構造線沿いのラインで、それ以東の本州から北海道・ロシア極東までがヒガシニホントカゲ、以西がニホントカゲの分布域です。カナヘビと並ぶ「庭のトカゲ」ですが、生息の好みや繁殖の仕方は大きく異なる、身近ながら奥深い一種です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:爬虫綱 Reptilia
- 目:有鱗目 Squamata
- 科:トカゲ科 Scincidae
- 属:トカゲ属 Plestiodon
- 種:ヒガシニホントカゲ Plestiodon finitimus(Okamoto & Hikida, 2012)
和名・英名
- 和名:ヒガシニホントカゲ(東日本蜥蜴)
- 英名:Far Eastern skink
- 2012年、ニホントカゲ Plestiodon japonicus から新種として分割
2012年、ニホントカゲから分割された新種
日本の「ニホントカゲ」は長らく1種として扱われてきましたが、2012年に分子系統解析(ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子)と形態の比較から3種に分けられました。関東・東北・北海道・ロシア沿海地方に分布するグループが Plestiodon finitimus として新種記載され、和名は「ヒガシニホントカゲ」に定まりました。近畿以西〜九州はそのままニホントカゲ P. japonicus、伊豆諸島はオカダトカゲ P. latiscutatus に振り分けられ、外見の似た3種が別種として並び立つ状態が明らかになりました。種小名 finitimus はラテン語で「隣接する」の意味で、隣接して分布する近縁種の姿を映した命名です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 16〜25cm(うちしっぽが約半分)/体重 5〜15g |
|---|---|
| 分布 | 本州東部(若狭湾〜琵琶湖〜三重〜和歌山ラインより東)・北海道・ロシア沿海地方/伊豆諸島はオカダトカゲ、近畿以西はニホントカゲ |
| 生息環境 | 日当たりの良い斜面・石垣・墓地・河原の礫地 |
| 寿命 | 野生でおよそ5〜6年、飼育下で10年前後の記録もあります |
| 保全状況 | IUCN:LC(低危険種)/地域個体群では減少傾向も報告されています |
姿と体のつくり

金属光沢のあるツルツルの鱗
光る鱗が生むしなやかな姿
ヒガシニホントカゲの鱗は滑らかで光沢が強く、光の当たり方によって金属のように輝きます。ザラザラした乾いた鱗を持つカナヘビとは正反対の質感で、成体の背中は褐色から灰褐色、体側面には濃い茶褐色の縦帯が入ります。体はやや太めのずんぐりした体型で、四肢は短めですが力強く、石の間や地面の隙間に潜り込むのに適しています。
幼体は青いしっぽに5本の白線
もっとも印象的なのが、幼体(子ども)の姿です。体は黒地に5本の細い白または黄色の縦縞が走り、しっぽは鮮やかな青。庭先で「青いしっぽのトカゲを見た」と話題になるのは、たいていヒガシニホントカゲかニホントカゲの幼体です。この青は、捕食者に「本体ではなく尾を狙わせる」機能を持つと考えられ、後述の自切と組み合わせて幼体を守るしくみになっています。
オス・メスの見分けと成熟
成熟したオスは体全体が褐色に変わり、体側面の縦縞が茶褐色で目立ちます。繁殖期のオスは側頭部から喉・腹部にかけて赤みを帯び、他のオスと差がついて見分けやすくなります。メスは幼体の色彩(黒地に白線・青い尾)を残したまま成熟することが多く、青い尾のまま卵を抱えている個体もいます。オスは生後2年、メスは生後2〜3年で性成熟します。
カナヘビとの見分け方 ―身近な庭のトカゲ2種

鱗の光沢としっぽの長さ
ヒガシニホントカゲとニホンカナヘビは、庭先で並んでいてもすぐ見分けられます。決め手は2つあり、1つ目は鱗の光沢です。ヒガシニホントカゲはツルツルで金属のように光り、ニホンカナヘビはザラザラして乾いた質感です。2つ目はしっぽの長さで、ヒガシニホントカゲはしっぽが全長の半分ほどですが、ニホンカナヘビは全長の2/3以上を占めます。全体の印象では、ヒガシニホントカゲが「ずんぐり」、ニホンカナヘビが「細長くしなやか」と対照的な体型になります。
石の下と草地 ―住み場所も違う
石垣・墓地の礫地を好む
ヒガシニホントカゲは石や倒木の下、石垣の隙間、墓地の礫地など「隠れる場所と日光浴の場所が近い」環境を好みます。日陰と日向をわずかな距離で行き来しながら、体温を細かく調節する暮らし方に適した住み場所です。
都市化に弱い ―孤立しやすい
都市化でブロック塀とコンクリートで環境が細切れになると、隠れ場所と日向を行き来できず個体群が孤立しやすい、都市化に弱いトカゲとされます。一方カナヘビは草地の茂みを駆け抜けるため、ブロック塀を乗り越えて移動しやすく、都市部でも生き残りやすい傾向があります。
青いしっぽと自切 ―再生尾には骨がない

青は捕食者への「囮」の色
尾に注意を集めて本体を守る
幼体の鮮やかな青いしっぽは、捕食者の注意を尾に集中させる働きを持つと考えられています。鳥やヘビが飛びかかった瞬間、しっぽが目立つほど本体への攻撃が減り、いざとなればしっぽを切り離す「自切」で本体は逃げられます。切れたしっぽはしばらくくねくねと動き、その間に体を隠す時間を稼ぎます。
成長すると青は消える
青い色は成長するにつれ薄れ、成体になると体色に近い色に落ち着きます。メスは幼体の色彩を残す傾向があり、青い尾のまま卵を抱えている個体も観察されます。オスは成長とともに褐色に変わり、繁殖期には喉から腹の赤みで幼体との差がはっきりします。
再生尾は少し短くて、骨がない
自切されたしっぽはやがて再生しますが、元の骨(椎骨)を含む尾には戻らず、軟骨の芯が通った少し短めの尾になります。再生尾は色も本来と微妙に違い、注意して見ると「一度切った跡」がわかります。骨のない再生尾では、もう一度同じように自切することはできず、本来の完全な自切能力は「1回だけ」の使い切りの仕組みだといえます。
繁殖と子育て ―母が卵を守るトカゲ

オス同士の頭突きは儀式的な戦い
4〜5月の繁殖期になると、オス同士は互いに頭を差し出しては相手に噛みつくという行為を交互に繰り返して争います。頭を噛み砕くほどの本気の戦いではなく、相手の大きさや力を測る儀式的な争いだと考えられています。この時期のオスは喉から腹の赤みが目立ち、繁殖のシグナルとして機能します。
母は卵を守り、孵化まで巣にとどまる
交尾を終えると、メスは5〜6月に石や倒木の下に浅い巣穴を掘り、1回に5〜16個の白い卵を産みます。そしてメスは卵が孵化するまでその場を離れず、外敵から巣を守り続けます。近縁のニホンカナヘビが産みっぱなしなのに対し、ヒガシニホントカゲは母親による卵保護をおこなう点が大きな違いです。孵化した幼体は黒地に白線・青い尾の姿で巣立ち、独り立ちしていきます。
食性と暮らし
ヒガシニホントカゲは肉食性で、昆虫・クモ・ミミズなど陸生の小型節足動物を主に食べ、時に果物を口にすることもあります。日中は日光浴で体温を上げ、餌をとり、暗くなる前に石や倒木の下に潜って眠るのが基本の一日です。夏の暑い時期には、水中に潜って涼をとる行動も報告されています。冬は日当たりの良い斜面の地中や石垣の隙間で冬眠し、春先の暖かい日に地上に出てきます。天敵はヘビ・鳥・ネコなどで、都市部ではノラネコによる捕食が個体群減少の一因ともされています。
飼育のコツ ―UVBと潜れる土
飼育ケースは30cm前後
庭で捕まえた個体を家で飼うケースが多いトカゲです。飼育ケースは昆虫用大サイズ(全長30cm前後)で1匹の飼育が成立します。床材は「土を掘って潜る」という本種の習性を尊重し、園芸用の土や爬虫類用の土を厚めに敷くのが基本です。ダニ・寄生虫予防の観点で市販の爬虫類用の土が推奨されます。キッチンペーパーやペットシーツのように潜れない床材は避けたほうがよいとされています。
UVBライトと活き餌
ヒガシニホントカゲは昼行性の爬虫類で、日光浴でビタミンD3を作りカルシウムを吸収する体の仕組みを持ちます。飼育下ではUVBを含むバスキングライトが必須で、ライトなしの飼育は数ヶ月〜半年で衰弱するケースが多く報告されています。餌はコオロギ・バッタ・ミミズなどの活き餌が基本になります。幼体は1〜2日に1回、成体は2〜3日に1回のペースで、その場で食べる分だけを与える方式が一般的です。カルシウム剤・マルチビタミン剤を粉末で餌にまぶす「ダスティング」が定番の栄養補給として推奨されます。
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参考
- Okamoto, T. & Hikida, T. 2012. A new cryptic species allied to Plestiodon japonicus (Peters, 1864) from eastern Japan. Zootaxa 3436: 1-23(新種記載論文)
- 疋田努「トカゲ属の学名変更〜EumecesからPlestiodonへ〜」爬虫両棲類学会報 2006(2), 2006(分類学の来歴)
- 荒尾一樹「水中に潜っていたニホントカゲ」爬虫両棲類学会報 2007(2), 2007(夏の水中利用行動)
- 関慎太郎『日本産野外観察のための爬虫類図鑑』緑書房, 2022(見た目・生態)
- Wikipedia(日本語版):ニホントカゲ/ヒガシニホントカゲ(分類・飼育・繁殖)


