ツチガエル

両生類

ツチガエルは、日本の水田・湿地・渓流など水辺全般に暮らす小型のカエルです。背中に並ぶ大小のイボ状突起から「イボガエル」の俗称でも知られ、灰褐色の体色と地味な佇まいで水辺に溶け込みます。低く小さな「ギュー・ギュー」という鳴き声や、幼生(オタマジャクシ)の一部が変態せず越冬する独特の生活史でも知られる種です。2022年には関東・東北の集団が別種「ムカシツチガエル」として分けられ、身近な種でありながら分類学的な話題も多いカエルとなっています。

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  1. 分類と学名
    1. 分類階層
    2. 和名・英名
    3. 名前の由来と「イボガエル」の俗称
  2. 大きさ・分布などの基本データ
  3. 姿と体のつくり
    1. 体長3〜5cmと雌性大型
    2. 背中のイボ状突起
    3. 皮膚から粘液を出す
  4. ヌマガエルとの見分け
    1. イボ・腹の色・体臭の3点で比較
    2. 裏返して腹を見るのが確実
  5. 分布 ―本州の在来、北海道は外来
    1. 本州・四国・九州の在来
    2. 伊豆諸島・北海道は国内外来種
      1. 1985年に札幌市南区で初記録
      2. コイの導入に紛れ込んで侵入
  6. 2022年発見の新種「ムカシツチガエル」
    1. 関東・東北の太平洋側集団
    2. 身近な種にも隠れる分類学的謎
  7. 鳴き声 ―低く小さな「ギュー・ギュー」
    1. アマガエルより低く小さい声
    2. 草陰から5〜9月に断続的に発声
  8. 繁殖と越冬するオタマジャクシ
    1. 5〜9月に数十個の卵塊
    2. 幼生の一部が越冬する
      1. 秋までに変態しない
      2. 越冬した幼生は全長8cmに達することも
  9. 食性と行動
    1. 小型昆虫を待ち伏せ型で捕食
      1. コオロギ・ハエ・アリなどが主な餌
      2. 目で追い舌を伸ばして捕える
  10. 寿命
    1. 野生下の寿命はよくわかっていない
    2. 飼育下では数年〜10年程度の記録
  11. 飼育
    1. 入手は在来個体群への配慮を最優先に
    2. 飼育環境
      1. 水陸両方のあるテラリウム
      2. 水質と換水
    3. 飼育上の注意
  12. 天敵
    1. サギ・ヘビ・魚・食肉類が主な捕食者
      1. 粘液の強い臭いが化学的防御
      2. ヤマカガシとは典型的な捕食関係
  13. 水田減少と保全
  14. 関連する生きもの
  15. 画像出典
  16. 参考

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:両生綱 Amphibia
  • 目:無尾目 Anura
  • 科:アカガエル科 Ranidae
  • 属:ツチガエル属 Glandirana
  • 種:ツチガエル Glandirana rugosa

和名・英名

  • 和名:ツチガエル(土蛙)/別名:イボガエル
  • 英名:Wrinkled Frog(しわのあるカエル)

名前の由来と「イボガエル」の俗称

和名の「土蛙(つちがえる)」は、褐色の体色が湿った土の色によく溶け込むことに由来します。学名の種小名rugosaはラテン語で「しわのある」を意味し、英名 Wrinkled Frog と併せて背中に並ぶイボ状突起の質感を表しています。日本では体表のイボ状突起から「イボガエル」と俗称されることが多く、ヒキガエルの俗称と混同されるケースもありますが、両者は分類上は別のカエルです。属名Glandiranaは「gland(腺)」と「Rana(カエル属)」を組み合わせた造語とされ、皮膚の腺状突起が発達した本属の特徴を反映した命名です。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体長 3〜5cm(メスがオスより大きい雌性大型)
分布北海道西部〜九州とその周囲の島。南西諸島・対馬には非分布
外来個体群伊豆諸島(伊豆大島・新島・三宅島など)・北海道(南部〜西部)・口之島(トカラ)は国内外来種
生息環境水田・湿地・池・山地の渓流〜河口域まで淡水域全般
食性地上性の小型昆虫類が中心
繁殖5〜9月に数十個の卵塊。オタマジャクシの一部は越冬する
保全状況IUCN:LC(軽度懸念)/日本では水田減少により在来個体群が減少傾向

姿と体のつくり

体長3〜5cmと雌性大型

ツチガエルの成体の体長は3〜5cm程度で、日本産のアカガエル科の中では小型の部類に入ります。カエル類の多くと同様、本種でもメスの方がオスより大きく、抱接時(雌雄が重なる行動)などには両性の体格差がはっきりわかります。この雌性大型は卵をより多く抱えるための体の作りと関係するとされます。

背中のイボ状突起

本種の最大の識別点は、背中に並ぶ大小のイボ状突起です。灰褐色から黒褐色のまだら模様の背中に、無数の小さな突起がびっしりと並び、皮膚全体が「しわ」を寄せたようなざらざらした質感を持ちます。腹は薄褐色で、背中と腹側で色調がはっきり異なる点も特徴のひとつ。個体によっては背中の中央に白い背中線(背中を縦に走る細い白線)が入り、識別の目印となる場合もあります。

皮膚から粘液を出す

属名Glandiranaにも表れているように、本種の皮膚には多数の腺(皮膚腺)が発達しています。手で触れると強い臭いのある粘液を分泌し、天敵の口に含まれた際の防御に働くとされます。イボガエルの俗称通りの外見と併せて、この粘液の防御が本種の生存戦略の柱になっています。

栃木で撮影されたツチガエル
Uraniwa, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

ヌマガエルとの見分け

イボ・腹の色・体臭の3点で比較

ツチガエルはヌマガエル(Fejervarya kawamurai)と体格や生息地が似ており、混同されがちです。両者の見分けは次の3点で整理できます。

観点ツチガエルヌマガエル
背中のイボ大きく発達したイボ状突起イボ状突起は小さいか目立たない
腹の色薄褐色(白くない)白または薄い色
体臭粘液に強い臭いがある目立った体臭はない

裏返して腹を見るのが確実

特に体を裏返して腹側を見ると、腹が白いヌマガエルとの違いが一目瞭然になります。捕まえたときに強い臭いがすれば、本種の可能性が高くなります。両種は同じ水田で見られることも多く、生息場所だけで種を決めるのは難しいとされます。

ツチガエルの背中
PD files, Public domain, via Wikimedia Commons

分布 ―本州の在来、北海道は外来

本州・四国・九州の在来

ツチガエルは北海道西部から本州・四国・九州、そして周囲の島々に広く分布します。ただし南西諸島や対馬には自然分布しておらず、日本本土の在来カエルとしての位置づけです。里山の水田・湿地・池・河川の流れの緩やかな部分・山地の渓流・河口の汽水域まで、淡水域のさまざまな環境で見られます。水辺からあまり離れることはなく、危険を感じるとすぐに水に飛び込める位置にいる姿がよく観察されます。

伊豆諸島・北海道は国内外来種

1985年に札幌市南区で初記録

ツチガエルは伊豆諸島(伊豆大島・新島・三宅島など)と北海道(南部から西部)、およびトカラ列島の口之島では「国内外来種」として扱われます。北海道では1985年に札幌市南区藤の沢で初めて記録された後、長沼町や滝川市など道内各地に定着が確認されました。

コイの導入に紛れ込んで侵入

北海道の個体群が在来か外来かは長らく不明でしたが、1970年代から1980年代にかけて本州産のコイの導入に紛れ込んで侵入したことが後に判明しました。同じ日本国内の別地域から人為的に運ばれた個体群が定着する「国内外来種」の代表例で、外来種問題の枠組みで管理の対象になっています。

姫路のツチガエル
Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

2022年発見の新種「ムカシツチガエル」

関東・東北の太平洋側集団

2022年、日本各地と朝鮮半島のツチガエルの形態とミトコンドリアDNAを比較した研究で、日本の関東と東北地方の太平洋側に生息する個体群が他の集団とゲノム配列が明らかに異なることが判明しました。この集団はムカシツチガエル(Glandirana reliquiaとして同年に新種記載されました。愛知教育大学のチームによる研究で、姿がよく似た2種が長らく同一種として扱われていた例です。

身近な種にも隠れる分類学的謎

ムカシツチガエルの発見は、身近な水田のカエルにも学問的な発見が隠れていることを示した事例です。関東・東北の太平洋側でツチガエルを見つけた場合、外見での判別は難しいため、正確な同定には遺伝子解析が必要とされます。今後、他地域の集団についても再検討が進む可能性が指摘されている段階です。

鳴き声 ―低く小さな「ギュー・ギュー」

アマガエルより低く小さい声

ツチガエルの鳴き声は本種の代表的な検索需要のひとつです。オスが繁殖期に鳴く声は「ギュー・ギュー…」と表現され、ヌマガエルやニホンアマガエルの鳴き声と比べるとかなり低く小声で、田んぼの中でも耳を澄まさないと気づきにくいほどです。この控えめな声色は近縁のアカガエル科の中でも特徴的で、聞き分けの手がかりになります。

草陰から5〜9月に断続的に発声

オスは水辺の草の間や浅瀬に潜んで鳴き、繁殖期の5〜9月にわたって断続的に発声が続きます。草陰や浅瀬の中から声を出すため、姿を確認するのは難しい種です。水田・湿地・水路の縁など、水と草陰が入り交じる場所が本種の主なさえずり場所とされます。

大山のツチガエル
ノボホショコロトソ, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

繁殖と越冬するオタマジャクシ

5〜9月に数十個の卵塊

本種の繁殖期は5月から9月と長く、日本のカエルの中では比較的期間の長い部類に入るとされます。オスが浅い水域で鳴いてメスを誘い、水中で抱接(雌雄が体を重ねる行動)が行われたのちにメスが卵を産みます。卵は数十個ずつの卵塊で産卵され、透明のゼリー状物質に包まれた卵塊として水中に産み出されるとされます。孵化した幼生(オタマジャクシ)はしばらく水中で藻類などを食べて成長します。

幼生の一部が越冬する

秋までに変態しない

「ツチガエル オタマジャクシ」の検索が多い背景には、本種の独特な生活史があります。多くのカエルでは秋までに幼生が変態してカエルの姿になりますが、ツチガエルでは幼生の一部が変態せずに水中で越冬します。水温が下がる冬の間、変態のスイッチが入らずに幼生の形のまま冬を越し、翌年の春に成長を続けて変態する個体が現れる特殊な戦略です。

越冬した幼生は全長8cmに達することも

越冬した幼生は成長期間が長くなるぶん大型化し、尾まで含めた全長が8cmに達する個体もいます。同じ田んぼで小さな新生幼生と越冬した大型幼生が混在することもあり、両者は明らかにサイズが異なります。この幼生越冬という戦略は、水温変化の激しい環境で繁殖成功率を分散させる意義があると考えられています。

食性と行動

小型昆虫を待ち伏せ型で捕食

コオロギ・ハエ・アリなどが主な餌

成体のツチガエルは肉食性で、地上を歩き回る小型の昆虫類を主に捕食します。コオロギ・ハエ・アリ・小型甲虫などが主な餌となり、口に入る大きさの動く獲物なら幅広く狙う動物食性のカエルです。

目で追い舌を伸ばして捕える

狩りは待ち伏せ型で、動く物を目で追い、素早く舌を伸ばして捕らえます。日中は水辺の草陰や石の下に隠れ、夕方から夜にかけて活動時間が長くなる傾向があるとされます。

田んぼのツチガエル
PD files, Public domain, via Wikimedia Commons

寿命

野生下の寿命はよくわかっていない

ツチガエルの野生下での正確な寿命はよくわかっていません。小型のカエルは天敵の多さや冬季の乾燥・凍結などで早期に姿を消す個体が多く、個体識別による長期追跡の例が乏しいためです。数年から生き延びる個体もいれば、幼生・変態直後の段階で失われる個体も多いと考えられています。

飼育下では数年〜10年程度の記録

飼育下では条件が安定するぶん寿命が延び、数年から10年程度生きた記録があるといわれています。同じアカガエル科の日本産カエル類(ニホンアカガエル・トノサマガエルなど)でも飼育下で10年前後の記録がある種があり、本種の寿命もおおむね同程度と推定されます。

飼育

入手は在来個体群への配慮を最優先に

本種は日本の在来種であり、地域ごとの遺伝的まとまりを保つことが保全上の課題です。国内外来種として位置づけられる地域(伊豆諸島・北海道・口之島など)からの個体を他地域へ持ち出すと、遺伝的攪乱を引き起こす原因となります。飼育目的で野外個体を持ち帰る際は、地域や採集数に十分注意する必要があります。

飼育環境

水陸両方のあるテラリウム

陸地と浅い水場(体が完全に沈める深さ)の両方を用意できるテラリウムが適します。流木や素焼き鉢の破片などで隠れ場所を作り、直射日光と高温を避け、常温で管理します。両生類は温度変化に敏感で、夏場の30℃以上は避けるのが基本です。

水質と換水

水場にはカルキ抜きした水を使い、週1回程度の換水を目安に清潔さを保ちます。両生類は皮膚呼吸の比重が大きく、水質悪化に弱いためです。餌の食べ残しは翌日までに回収し、腐敗による水質悪化を防ぎます。

飼育下では次のような生き餌が使われます。

  • コオロギ(フタホシ・イエコの小〜中サイズ)
  • ミルワーム
  • ワラジムシ
  • その他、口に入るサイズの動く生き物

週2〜3回のペースで与え、ときどきカルシウム剤をまぶす(ダスティング)と栄養バランスが整います。動きに反応して捕食するカエルなので、原則として生き餌を用意します。

飼育上の注意

皮膚粘液には強い臭いを持つ成分があるため、触った手は必ず洗います。複数個体を同居させる場合はサイズをそろえます(大きい個体が小さい個体を餌と誤認するリスクがあります)。冬季は屋内の常温飼育で越冬させない管理も可能ですが、繁殖を狙う場合は冬眠を経験させる管理法もあります。

天敵

サギ・ヘビ・魚・食肉類が主な捕食者

粘液の強い臭いが化学的防御

ツチガエルの天敵は水辺の生態系に典型的なメンバーで構成されます。主な捕食者は次の4群です。

  • 水鳥:アオサギ・コサギ・ゴイサギなどのサギ類
  • ヘビ類:ヤマカガシ・シマヘビなど
  • 魚類:ナマズなど大型の淡水魚
  • 中型食肉類:イタチ・タヌキなど(外来のアライグマが加わる地域もあります)

皮膚の粘液から出る強い臭いは、これらの天敵に対する化学的な防御と考えられています。

ヤマカガシとは典型的な捕食関係

とくにヤマカガシはツチガエルを含むカエル類を主食のひとつとする種で、両者は同じ水辺で見られる典型的な捕食者・被食者関係にあるとされます。ヤマカガシが首背側の頸腺(けいせん)にためている毒は、餌としたヒキガエル類の毒(ブフォトキシン類)に由来することが知られており、水辺のカエルはヤマカガシにとって重要な餌資源のひとつです。

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参考

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