ナキオカヤドカリ

エビ・カニ類(十脚類)

ナキオカヤドカリは、日本の南西諸島や小笠原諸島の海岸で見られる陸生のヤドカリです。宿貝と体を擦り合わせて「ギッギッ」という音を発することが和名の由来で、日本産オカヤドカリ属の中では最も小型の種にあたります。国の天然記念物に指定されており、無許可の採集は法律で禁止されています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:節足動物門 Arthropoda
  • 綱:軟甲綱 Malacostraca
  • 目:十脚目 Decapoda
  • 下目:ヤドカリ下目 Anomura
  • 科:オカヤドカリ科 Coenobitidae
  • 属:オカヤドカリ属 Coenobita
  • 種:ナキオカヤドカリ Coenobita rugosus(H. Milne-Edwards, 1837)

和名・英名

  • 和名:ナキオカヤドカリ
  • 英名:Rugose Land Hermit Crab

名前の由来

「ナキ」は鳴くことを意味し、本種が宿貝の内側と体の一部を擦り合わせて「ギッギッギッ」という短い音を発する習性に由来します。ヤドカリ類には音を出すものが多いですが、日本産オカヤドカリ属の中でも本種は特にはっきりした発音で知られています。学名の rugosus はラテン語で「しわのある」を意味し、脚の表面に細かい皺状の模様があることを表しています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ最大甲長 約3cm前後(日本産オカヤドカリ属で最小)
体色褐色から灰白色まで個体差が大きい
分布インド太平洋の熱帯・亜熱帯/日本では小笠原諸島・南西諸島の海岸
生息環境海岸の砂地・アダン林・岩礁の潮上帯。海に近いが陸上で暮らす
食性雑食(果実・葉・海藻・打ち上げられた動物質の残渣など)
繁殖初夏〜夏に大潮の夜、雌が波打ち際でゾエア(幼生)を海中に放出
寿命野生で10〜20年程度、飼育下でも適切な環境なら10年以上
法的地位1970年に「オカヤドカリ」として国の天然記念物に指定(本種を含むオカヤドカリ属6種一括)

殻を擦って鳴くヤドカリ

木の幹に群れるナキオカヤドカリ
Michael Quigley Quigabyte, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

ヤドカリの多くは静かなイメージで見られていますが、本種の和名の「鳴」は、宿貝と体を擦り合わせて発する短い音に由来するとされます。名前どおり、はっきりした発音が実物からも確認できるとされます。

殻と体を擦り合わせて発する音

発音の仕組み

本種は宿貝の内側と自分の脚の付け根や腹部を擦り合わせることで、短く連続した「ギッギッギッ」という音を発します。専用の発音器官があるわけではなく、体表と貝殻の摩擦を利用した「ストリドュレーション」と呼ばれる方法で、昆虫のバッタなどが翅を擦って音を出すのと似た仕組みだとされます。

発音が観察される場面

音を出す場面はまだ完全に解明されていませんが、他個体との遭遇・驚いたとき・宿貝を奪おうとする相手への威嚇などが挙げられます。人に拾い上げられた個体からも発音が聞こえることが多く、飼育下で観察しやすい種としても知られています。

陸で暮らし、海に子を返す

砂地を歩くナキオカヤドカリ
Rorolinus, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

オカヤドカリ属の最大の特徴は、成体が完全に陸上生活を送りながら、繁殖の一時期だけ海に戻る点にあります。ナキオカヤドカリもその例に漏れず、海岸の陸側と潮間帯を行き来しながら一生を送ります。

上陸したヤドカリの体

陸で暮らすオカヤドカリ類は、鰓を保護する鰓室に水分を蓄えて呼吸する仕組みを持ちます。定期的に海水や淡水に浸かって鰓室内を湿らせる必要があり、乾燥が続くと死亡する敏感な生き物です。活動時間は夜がピークで、日中は物陰や湿った砂の下に隠れて過ごしています。

雌親が波打ち際で幼生を海へ返す

プランクトンとしてのゾエア期

初夏から夏にかけての大潮の夜、雌のオカヤドカリは腹部に抱えていた卵から孵化した幼生(ゾエア)を波打ち際で海中に放出します。ゾエアはプランクトンとして海中を漂い、5回ほどの脱皮を経てグラウコトエと呼ばれる稚ヤドカリの姿に変態するとされます。この間、幼生は完全に海の生き物として暮らします。

稚ヤドカリの上陸

グラウコトエになった稚ヤドカリは、小さな貝殻を背負って岸に近づき、そのまま海岸に上陸します。以降は完全に陸生の暮らしに切り替わり、成長にともなって大きな宿貝に順次引っ越していきます。陸に上がったヤドカリが再び海水に長時間浸かると、成体は溺れて死ぬこともあるとされます。

近縁のオカヤドカリ類との識別

ナキオカヤドカリの眼柄(下部の黒い斑紋が識別点)
Rorolinus, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

日本産のオカヤドカリ属は本種を含めて6種が知られています。姿はいずれも似ていますが、眼柄(目の付け根の柄状部分)の模様と体の大きさが主な識別点になります。

眼柄の黒い斑紋

ナキオカヤドカリの最大の識別点は、眼柄の下部にある黒い斑紋です。似た大きさで混同されやすいムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)は眼柄が白っぽく、この斑紋を持たないため、目の周りをよく見れば区別できるとされます。成体でも甲長3cm前後にとどまる小型さも、大型化するオカヤドカリやオオナキオカヤドカリとの見分けの手がかりになります。

日本産オカヤドカリ属6種の比較

最大甲長/体色/特徴
ナキオカヤドカリ約3cm/褐色〜灰白/眼柄下部に黒斑・鳴く
ムラサキオカヤドカリ約5cm/成体は紫/眼柄が白っぽく無斑
オカヤドカリ7〜10cm以上/こげ茶〜灰/中〜大型
オオナキオカヤドカリ10〜15cm/赤紫〜赤/国内最大級
コムラサキオカヤドカリ5〜8cm/濃い紫/琉球周辺
サキシマオカヤドカリ中型/体色はまだら/先島諸島中心

宿貝と脱皮の一生

宿貝を背負ったナキオカヤドカリ
Rorolinus, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

ヤドカリ全般に共通する特徴として、成長にともなう宿貝の引っ越しがあります。ナキオカヤドカリも例外ではなく、生涯を通じて複数回の脱皮と貝の交換をくり返しています。

宿貝の引っ越しとシェルファイティング

体が大きくなると、それまでの宿貝が窮屈になり、より大きな貝殻へ引っ越すことになります。海岸には空になった巻貝の殻が転がっており、良さそうな貝を見つけるとハサミで内側の状態を確かめ、条件が合えば古い貝を捨てて新居に入ります。良い貝は複数のヤドカリが取り合う「シェルファイティング」と呼ばれる争いも起こり、勝った個体が貝を得るとされます。日本の海岸で貝殻が乏しくなると、ヤドカリ全体の生育に影響が出ると指摘されています。

脱皮の危険性

硬い外骨格を持つ甲殻類は、成長するには古い外骨格を脱いで新しいものと交換する脱皮が必要です。ナキオカヤドカリの脱皮は数日から数週間かかることもあり、その間は柔らかい体をさらして完全に無防備な状態になります。脱皮不全は生命の危険に直結し、飼育下でも死因の一つに数えられています。

天然記念物としての位置づけ

手のひらに乗せられたナキオカヤドカリ
Hentaigay, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ナキオカヤドカリは1970年、他のオカヤドカリ属5種とまとめて国の天然記念物に指定されました。単一の種ではなく「オカヤドカリ」という一括の指定である点が本種の位置づけの特徴です。

1970年のオカヤドカリ属一括指定

指定当時から個体数減少の傾向が指摘されており、南西諸島の観光土産としての乱獲を防ぐことが主な目的とされます。文化財保護法上、天然記念物に指定された動物の採集・捕獲・売買・飼育は、原則として文化庁長官の許可が必要となります。

販売と飼育の合法・違法

許可業者を通じた流通

沖縄県や鹿児島県の文化庁許可を受けた採取業者が、毎年3月下旬〜9月下旬の許可期間中に採取した個体は、通年で販売・飼育が認められています。ホームセンターや熱帯魚店で「オカヤドカリ」として流通しているのはこの経路の個体で、種は許可業者に一任されているためナキオカヤドカリ・ムラサキオカヤドカリの若齢個体が中心となる傾向があります。

観光地での無許可持ち帰り

南西諸島の海岸でオカヤドカリを持ち帰る行為は、たとえ小型の1個体であっても文化財保護法違反にあたるとされます。宿貝の中に隠れている個体が無許可で運び出される事例が観光地で問題視されており、地元では啓発活動が続いています。

関連ページ

ヤドカリ【総合】
ヤドカリは貝殻を背負って暮らす甲殻類の仲間。成長に合わせた「宿替え」や殻の奪い合い、殻を捨てて育ったヤシガニ・タラバガニ、イソギンチャクとの共生まで。

参考

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