ヒドリガモは、オスの頭が緋色(ひいろ・赤褐色)に染まり、額から頭頂だけがクリーム色に抜ける独特の配色を持つカモ科の鳥です。学名は Mareca penelope。全長約50cmの中型ガモで、日本には冬鳥として全国に渡来し、湖沼・河川・河口・干潟などで越冬します。
オスの口笛のような「ピュー、ピュー」という高い声、そしてアオサやアマモなどの海藻・水草を主食にする植物食のカモとして知られる種です。他のカモが水中から引き上げた海藻を横取りする行動も観察され、種を超えた「盗み採食」の代表例として紹介されます。都市の公園池や川の中州でも見られる、冬の代表的なカモです。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:カモ目 Anseriformes
- 科:カモ科 Anatidae
- 属:ヨシガモ属(ヒドリガモ属)Mareca
- 種:ヒドリガモ Mareca penelope
和名・英名
- 和名:ヒドリガモ(緋鳥鴨)
- 英名:Eurasian wigeon(ユーラシアン・ウィジョン)
別名と名前の由来
- 和名「ヒドリガモ(緋鳥鴨)」:オスの頭部の赤褐色を「緋色(ひいろ)」に見立てた命名。「緋」は昔から赤系の色を指す和語で、目立つ頭の色が名前の由来になっています。
- 英名「Eurasian wigeon」:「ユーラシア大陸のウィジョン」の意味。wigeon はカモの一群を指す古い英語で、口笛のような鳴き声から来た可能性があるとされています。
- 属名 Mareca:ポルトガル語で「小さなカモ」を意味する marreco に由来する属名です。かつてはマガモ属(Anas)に含まれていましたが、2009年以降の分子系統解析でヨシガモ属(Mareca)として独立しました。
- 種小名 penelope:ギリシャ神話に登場するオデュッセウスの妻「ペーネロペー」に由来します。ペーネロペーが赤い色の織物を織り続けた逸話にちなんだとされる説があります。
大きさ・生息などの基本データ
| 大きさ | オス 全長 約53cm/メス 約43cm/翼開長 68〜84cm/体重 約500〜900g |
|---|---|
| 体色 | オス=額〜頭頂がクリーム色/顔〜首が赤褐色(緋色)/胸は薄い茶色/体上面と脇腹は灰色/翼に白い斑/尾の下は黒/メス=全身が赤褐色を帯びた茶褐色に細かい斑/腹は白/頭部は褐色 |
| 分布 | 繁殖地:ユーラシア大陸北部(アイスランド・北欧・シベリア)の寒帯/越冬地:温帯・亜熱帯の広域/日本には冬鳥として全国に渡来 |
| 生息環境 | 越冬時:湖沼/河川/河口/海岸/干潟/公園の池/河口の干潟や磯でアオサを食べる姿がよく見られる |
| 食性 | 植物食が中心/水面に浮く葉・茎・根・種子を採食/海岸・干潟ではアオサ(緑藻)やアマモなどの海藻/水生昆虫や軟体動物も少し食べる/潜水はしない |
| 鳴き声 | オス:口笛のような甲高い「ピュー、ピュー」/メス:低い「ガァー、ガァー」 |
| 寿命 | 野生でおよそ3〜10年(記録では20年以上生きた個体もあり) |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念)/日本では冬鳥として全国的に普通 |

オスの緋色の頭とメスの茶褐色
頭頂クリーム色と顔面赤褐色の二色
額から頭頂が抜けたようなクリーム色
ヒドリガモのオスは、頭部の配色がとても特徴的です。額から頭頂にかけての中央がクリーム色(薄黄色)にはっきり抜け、その周囲の顔・首は赤褐色(緋色)で染まります。ちょうど頭のてっぺんに「クリーム色の帽子を斜めにかぶった」ように見える配色で、他のカモにはない目印になります。
体は灰色、翼に白い斑
体の上面と脇腹は細かい波模様の灰色で、胸は淡いピンクがかった茶色になります。翼を閉じているときは、雨覆の白い斑が体の側面に大きな白いパッチとして見え、遠くからでも識別の手がかりになります。尾の下は黒く、水面に浮かんでいるときにもこの黒い尾下部が目立ちます。
メスは赤褐色を帯びた茶褐色
メスは全身が茶褐色に細かい斑が入る地味な色合いですが、他のカモ類のメスと比べると赤褐色みが強いのが特徴です。腹だけが白く、頭部も褐色に染まります。近縁の外来種アメリカヒドリのメスは頭部が白っぽくなるため、その点で見分けられます。

「ヒドリ=緋色」名前の由来
「緋色(ひいろ)」は古くからの赤系の色名
「ヒドリ」は「緋鳥(ひどり)」と書き、オスの頭部の赤褐色を「緋色」に見立てた命名です。緋色は古代日本から用いられてきた色名で、鮮やかな朱色に近い赤を指します。奈良時代には官位を示す衣装の色に用いられ、江戸時代には友禅染めや火消しの半纏の色としても使われた、日本文化で古くから用いられてきた赤系の色名の1つです。
種小名 penelope はギリシャ神話の織物伝承に由来
学名の種小名 penelope も赤色に関係する説があります。ギリシャ神話の女性ペーネロペーは、夫オデュッセウスの帰りを待ちながら赤い色の織物を織り続け、夜には織ったところをほどく話で知られます。この「織物と赤」のイメージが本種の頭部の緋色と結びつき、種小名になったとする説が有力です。和名の「緋鳥」と学名 penelope は、いずれも「赤色」を指す点で共通します。
ユーラシア北部から渡ってくる冬鳥

繁殖地は北欧・シベリア・アイスランド
寒冷地の湖沼で夏に繁殖
ヒドリガモはユーラシア大陸の北部で繁殖し、冬になると温帯・亜熱帯の広域へ渡って越冬します。主な繁殖地は次の地域です。
- アイスランド
- ノルウェー・スウェーデン・フィンランドなど北欧諸国
- ロシアのシベリア北部(タイガ地帯・ツンドラ地帯)
- カムチャツカ半島
7〜9個の卵をメスだけで抱卵
これらの寒冷地で夏に繁殖し、水草の生える湖や沼のほとりに巣を作って産卵します。1回に7〜9個の卵を産み、メスだけが抱卵して雛を育てます。
日本には10月〜11月に渡来し、3月まで滞在
日本には毎年10月から11月にかけて渡来し、翌年の3月ごろまで越冬します。日本全国に渡来し、北海道から沖縄までの湖沼・河川・河口・干潟・都市公園の池など、水辺があれば幅広く見られます。とくに東京湾・伊勢湾・大阪湾などの内湾/多摩川・淀川などの大河川/皇居のお堀や不忍池のような都市部の池でも普通に観察でき、冬に全国で最も個体数の多いカモの1つとされます。
海藻・水草食と「アオサ横取り」

植物食が中心、潜水はしない
水面採食と逆立ち採食が基本
ヒドリガモはカモの中でも植物食の割合が特に高い種で、水面に浮かぶ葉・茎・種子や、水辺の草を食べて暮らします。マガモやカルガモのように水中に頭を突っ込む「逆立ち採食」はするものの、潜水はしません。海岸や干潟ではアオサ(緑藻)やアマモなどの海藻を好み、干潮時の磯で緑の藻をついばむ姿がよく見られます。
他のカモから海藻を横取りすることも
「盗み採食」の代表例として知られる
ヒドリガモは自分では潜水できないため、潜水採食するオオバンやキンクロハジロが水中から水草・海藻を引き上げるのを見計らって、その食物を横取りする行動を取ることが知られています。水鳥研究者の観察報告では、潜水種が浮上した瞬間にヒドリガモが素早く近寄って藻を奪う様子が繰り返し記録されており、種を超えた「盗み採食(クレプトパラサイティズム)」の代表例として紹介されることもあります。
湖沼・河口・海岸で越冬

主な観察地
ヒドリガモは冬の日本で最も個体数の多いカモの1つとされます。以下のような環境で普通に見られます。
- 都市の公園池(皇居のお堀・不忍池・大阪城公園など)
- 大河川の中流〜河口(多摩川・淀川・利根川・木曽川など)
- 内湾の干潟・海岸(東京湾・伊勢湾・大阪湾・有明海など)
- 湖沼(琵琶湖・霞ヶ浦・宍道湖など)
鳴き声と発見の手がかり
本種を発見する際の手がかりは、姿の緋色の頭と、独特の鳴き声です。オスは口笛のような甲高い「ピュー、ピュー」と鳴き、水辺の群れの中で1羽が鳴きだすと周囲の個体も呼応することがあります。メスは低い「ガァー、ガァー」の声で、オスとは対照的な低音です。口笛のような澄んだ声は、冬の水辺で本種の群れを識別する目印になります。
関連





参考
- Wikipedia日本語版: ヒドリガモ
- IUCN Red List: Mareca penelope (LC)
- eBird: Eurasian Wigeon Mareca penelope
- 日本野鳥の会


