カミナリイカ

カミナリイカ・水族館の生体 イカ・タコ類(頭足類)

カミナリイカは、日本近海に住む大型のコウイカ類です。背中に並ぶ稲妻状の模様と丸い斑紋から名づけられ、市場では「モンゴウイカ」「紋甲いか」の名で寿司ネタや刺身として親しまれています。ただし現在流通している「もんごう」の多くは別種で、本来のカミナリイカは地方名としてこの呼び名を残す本家にあたります。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:頭足綱 Cephalopoda
  • 目:コウイカ目 Sepiida
  • 科:コウイカ科 Sepiidae
  • 属:Acanthosepion 属
  • 種:カミナリイカ Acanthosepion lycidas(旧 Sepia lycidas

和名・英名

  • 和名:カミナリイカ
  • 英名:Kisslip cuttlefish

別名・学名の由来

市場では「モンゴウイカ(もんごういか・紋甲いか)」の名で通ります。そのほかにモンゴ・マルイチ(丸一)・ギッチョイカ・コブイカ・センドウイカなど地方名が非常に多い種です。学名は長らく Sepia lycidas Gray, 1849 が用いられてきましたが、近年の再分類で Acanthosepion 属に移されました。種小名 lycidas はギリシャ神話由来の人名で、命名者ジョン・エドワード・グレイが1849年に記載しました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ外套長 平均 約38cm、最大体重 約5kg
分布日本近海~フィリピン、インドネシア、ミャンマーにかけての印度・西太平洋
生息環境水深15〜100mの砂泥・貝殻底、海藻の縁
寿命約1〜2年(産卵後に死亡)
保全状況IUCN: DD(情報不足)

名前の由来と多すぎる別名

「カミナリ」の由来

「カミナリイカ」の名は、背中に走る稲妻のような縞模様に由来するとされます。産卵期の春から初夏、雷が鳴るころに沿岸へ集まってくる時期と重なることも、この和名の背景として挙げられます。

「モンゴウ(紋甲)」と地方名

「モンゴウイカ」は市場流通名として最も広く使われる呼称です。背中の丸い斑紋を「紋」に見立てた「紋甲いか(もんこういか)」が転じたものと考えられています。派生した別名も多く、丸い紋から「マルイチ(丸一)」の呼び名が生まれました。船頭のような姿から「センドウイカ」、こぶ状のふくらみから「コブイカ」、地方によっては「ギッチョイカ」とも呼ばれます。ただし現在、市場で「もんごう」と呼ばれるものの多くはカミナリイカではありません(詳細は後述)。

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見た目と体のつくり

カミナリイカの生体・宮島水族館
Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

背中の雷紋

成体の背中には、まわりが暗く縁取られた丸い斑(眼状斑)が数対、そのあいだをつなぐように稲妻状の縞が走ります。この模様が名前の由来です。体色は赤褐色から紫色を基調とし、興奮したときには全身を明るく波打つように変化させます。頭足類らしく皮膚の色素胞を瞬時に開閉させ、周囲の砂泥や海藻に体色を合わせて隠れます。

甲(硬い石灰質の骨)

カミナリイカの甲・腹側
Mariko GODA, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

コウイカ類の最大の特徴は、外套膜の内側にある「甲(こう)」と呼ばれる石灰質の板状構造にあります。カミナリイカの甲は楕円形で分厚く、寿司屋や料理店ではこの甲を取り除いた身が使われます。海岸に打ち上がった甲を見つけたことのある人も多いはずで、白くて軽く、指で押すとぼろぼろと崩れる硬さになっています。

甲の左右非対称

カミナリイカの甲・背側
Mariko GODA, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

本種の甲には、左右どちらか片側がわずかに凸に膨らむ形態的な非対称が知られています。海洋生物学の研究では、この非対称が個体ごとの「利き」と結びつくと報告されました。甲が右側で凸の個体は狩りのとき体を右へひねる傾向を示し、逆側で凸なら反時計回りに動く、というものです。左右の脳の情報処理に偏りがあることを示唆する例として、無脊椎動物では珍しい報告になっています。

浮力調節の仕組み

甲の内部は多孔質の層で構成され、気体を出し入れして浮力を調節します。ジェット噴射で泳ぐ他のイカ類が常に運動エネルギーを使って中層に留まるのに対し、コウイカ類は甲の浮力調節によって省エネで海底近くに静止できます。ホバリングしながら砂地の獲物を狙う狩り方は、この骨格構造があって初めて可能になっています。

目と腕・吸盤

W字型の瞳

頭部に大きな2つの目を持ちます。瞳孔はW字型に切れ込んだ特徴的な形で、視野が広く、両眼で獲物までの距離を精密にはかれます。頭足類は色覚を持たないとされる一方、視野の広さと空間認識に優れ、この目でエビや小魚の位置を正確にとらえます。

腕と吸盤・交接腕

10本ある付属肢のうち、8本は短い「腕」、残る2本は長く伸びる「触腕(触手)」です。触腕は普段は袋にしまわれ、獲物に届く距離になると一瞬で射出される仕組みになっています。腕には小さな吸盤が細かく並び、いずれもほぼ同じ大きさで揃うと知られています。オスの左第4腕は交接腕(ヘクトコティルス)として変形しており、精子を含んだ精莢を雌の外套腔へ渡す役割を担います。

生態と行動

生息と分布

印度・西太平洋の熱帯~温帯域に広く分布し、日本では本州中部以南の太平洋岸から九州・沖縄にかけて見つかります。ふだんは水深15〜100mの砂泥や貝殻の混じった海底に潜むものが多く、春から初夏の産卵期になると沿岸の水深数mまで浅場に上がってくるという季節移動が知られています。似た環境を利用するコウイカ類には東南アジア産のトラフコウイカや日本沿岸のコウイカ・シリヤケイカなどがあり、海底の砂・貝殻・海藻の縁がそのまま共通の隠れ場となっています。

食性と狩り

ジャンプ捕食

主にエビなどの甲殻類や小魚を捕食します。獲物を見つけると、体をわずかに浮かせてから「跳びかかる」ような動きで距離を詰め、伸ばした触腕で瞬時にとらえるという。この飛びつく動作は英名 kisslip cuttlefish の由来のひとつとも言われ、口の周りをすぼめて獲物に接するようすを表していると考えられています。

狩りの左右利き

先に述べた甲の非対称と結びついて、狩りのときに体を回す方向にも個体差があります。動物行動学の研究では、右利き・左利きに近い偏りが観察されました。無脊椎動物の「利き」の研究は少なく、カミナリイカはそのモデル生物のひとつとして扱われています。

産卵と成長

アメ色の卵

産卵期は4月から7月で、雌は水深数mの浅場に集まって海藻や岩に付着させる形で卵を産みます。1個ずつの卵はアメ色でぷっくりと膨らみ、鶏卵に似た形をしていると知られています。1個体あたりの産卵数は数百〜千個規模と報告されており、産み終えた雌はまもなく死んでしまうという。

孵化から成熟まで

卵は水温にもよりますが、およそ25日ほどで孵化します。ふ化した稚仔はすでに親と似た姿をしており、砂に身を隠す行動もこの時点で見られるという。オスは孵化からおよそ150日で成熟に達し、雌はやや遅れて成熟するとされます。産卵を終えた個体は雌雄とも死亡し、寿命は約1〜2年と短命の部類に入ります。

「モンゴウイカ」という呼び名の混乱

台湾国立自然科学博物館のカミナリイカ標本
SSR2000, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

本来はカミナリイカの地方名

「モンゴウイカ」は本来、カミナリイカを指す地方名でした。背中の丸い斑(紋)と分厚い甲を持つこの種は、東シナ海でよく獲れ、肉厚でねっとりとした食感から高値で取引されてきました。しかし東シナ海の資源が減少するにつれ、代わりに輸入された近縁の大型コウイカ類が「もんごう」の名を引き継ぐようになりました。

現在の市場で「もんごう」と呼ばれるもの

主流はヨーロッパコウイカ・トラフコウイカ

現在流通している「もんごう(紋甲)」の主流は、ヨーロッパコウイカ Sepia officinalis と、東南アジア産のトラフコウイカ Sepia pharaonis です。1959年に日本の漁船がヨーロッパコウイカの好漁場を発見し、以来アフリカ沿岸から大量に輸入されました。1967年の年間漁獲量は3万トンにのぼり、日本のコウイカ市場を席巻したとされます。トラフコウイカは1969年ごろからアラビア海のアデン湾で日本のトロール船が漁獲を始め、この経緯から「アデンもんごう(アデンモンゴウ)」の呼び名で流通しています。

本来のカミナリイカは希少

つまり寿司屋やスーパーで「もんごうイカ」として売られている白いイカのほとんどは、本来のカミナリイカではなく輸入コウイカ類ということになります。カミナリイカ本来のものは希少で、東京都中央卸売市場の統計でも取扱量は5月に多く、8月には少なくなる季節変動が明確に出ています。豊洲市場での平均卸価格は1kgあたり約1,200円前後で推移してきました。

食材としてのカミナリイカ

旬と味わい

旬は春から初夏、産卵のために浅場に集まる時期です。身は厚く柔らかで、ねっとりとした甘みがあります。加熱するとふんわりと弾力が出て、噛みしめると澄んだ甘さが広がります。生食では舌にとろけるような食感が特徴で、コウイカ類の中でも上位の評価を得てきました。

料理と捌き方

刺身・寿司ネタ・煮付け・天ぷら・木の芽和えなど、和食のさまざまな用途に向きます。厚みのある身は薄い削ぎ切りにして刺身にすると甘さがよく引き立つという。捌く際はまず外套膜を開いて甲を抜き取り、内臓・墨袋・目・口(カラストンビ)・軟骨を外して皮を剥がします。厚い身は隠し包丁を入れておくと、加熱や噛みごたえのバランスがよくなります。卵巣は加熱するとほろりと崩れ、煮付けや酢の物で用いられるのが一般的です。

シリヤケイカ・コウイカとの見分け方

日本沿岸で獲れる大型コウイカ類の代表は、カミナリイカ・コウイカ(マイカ)・シリヤケイカの3種です。カミナリイカは背中の丸い斑と稲妻状の縞が目立ち、体色は赤褐色〜紫が基調になります。コウイカは全体に暗く、背中に細い横縞が入ることで知られています。シリヤケイカは尾部の腹側に橙色の液を出す腺があり、これが「尻焼け」の名の由来と言われています。3種はいずれも市場で「モンゴウイカ」「甲イカ」の総称で扱われることがあり、見分けには実物での比較が欠かせません。

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参考

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