クマタカは、日本の山地の森に暮らす大型のタカで、森林生態系の頂点に立つことから「森の王者」と呼ばれます。頭の後ろにのびた冠羽と、翼を広げれば1.5メートルを超える姿が目を引く猛禽です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:タカ目 Accipitriformes
- 科:タカ科 Accipitridae
- 属:クマタカ属 Nisaetus
- 種:クマタカ Nisaetus nipalensis
和名・英名
- 和名:クマタカ(熊鷹・角鷹)
- 英名:Mountain hawk-eagle
名前の由来と学名
クマタカは、以前は南米のタカなどと同じ Spizaetus 属に置かれていました。しかし遺伝子の研究をうけて、アジアの仲間はクマタカ属 Nisaetus に分けられました。学名の種名 nipalensis は、標本が記載されたネパールにちなみます。和名は「角鷹」とも「熊鷹」とも書きます。頭の後ろの冠羽が角のように見えることが「角鷹」の、大きく力強い姿が「熊鷹」の由来だとされます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約70〜83cm/翼を広げた幅 約140〜175cm(メスが大きい) |
|---|---|
| 体重 | 約2〜3.5kg(メスがオスより大きい) |
| 分布 | ヒマラヤから東アジア・東南アジア。日本では北海道〜九州の山地に周年生息 |
| 生息環境 | 山地の広い森林 |
| 食べ物 | ノウサギ・ヤマドリ・ヘビ・リス・ムササビなど。時に自分より大きな獲物も |
| 寿命 | 野生でおよそ20〜30年とされる |
| 保全状況 | IUCN:NT(準絶滅危惧)/日本:環境省レッドリスト 絶滅危惧ⅠB類(EN)・国内希少野生動植物種 |

森に暮らす大きなタカ
冠羽と力強い体
大きさとメスの優位
クマタカは、日本のタカ科のなかでも大型で、全長は70〜83センチメートルに達します。翼を広げた幅は1.5メートルを超え、メスがオスよりひとまわり大きくなります。翼は幅が広く、指を広げたように見える風切羽(翼指)が目立ちます。全体に濃い褐色で、腹には横しまが入り、成鳥の目は黄色をしています。
角のような冠羽
頭の後ろには、白い羽の混じった冠羽がのびています。興奮すると立ち上がり、角のように見えることがあります。これが「角鷹」という和名の由来の一つです。若い個体は全身が淡い色で、頭や腹が白っぽく見えるため、濃い褐色の成鳥とは印象が異なります。成鳥の羽になるまでには数年かかるとされます。
日本は分布の北のはて
山地の森の留鳥
日本のクマタカは、北海道から九州にかけての山地の森に、渡りをせず一年じゅう暮らす留鳥です。深い森を主なすみかとし、開けた場所に出ることは多くありません。日本にいるのは亜種で、大陸の個体より大きく、色が淡い傾向があります。
アジアに広がる仲間
クマタカは、ヒマラヤ・インド・東南アジア・台湾・日本など、アジアの広い範囲に分布します。日本は、その分布のもっとも北のはしにあたります。地域によって大きさや色あいに違いがあり、いくつかの亜種に分けられています。

森の待ち伏せ猟師
森を飛ぶ体つき
幅広い翼と長い尾
クマタカの翼は幅が広く、尾は長めです。この体つきは、木々の間をぬうように飛び、急に向きを変えるのに向いています。開けた空を高く舞うイヌワシとは対照的に、クマタカは森のなかや谷ぞいを、身を隠しながら移動します。狩りには二つの方法が知られ、枝にとまって待ち伏せる方法と、上空を旋回しながら獲物を探す方法を使い分けます。
ノウサギからムササビまで
主な獲物は、ノウサギ・ヤマドリ・リス・ヘビなど、森で暮らす中小型の動物です。夜行性のムササビも重要な獲物で、台湾の調査では、獲物のおよそ半分をムササビ類が占めたという報告もあります。鋭いかぎ爪と太い脚で獲物をつかみ、その場で仕留めます。獲物をすぐに押さえられないときは、捕まえやすい場所へ追い立てることもあるとされます。
自分より大きな相手も
クマタカは、時に自分より大きな哺乳類を襲うこともあります。若いシカやサル、キツネなどが襲われた記録もあり、森の頂点に立つ捕食者であることがうかがえます。ただし、いつも大物を狙うわけではなく、ふだんはノウサギほどの獲物を主な糧としています。
森の王者の子育て

高い木の巣と、1個の卵
クマタカは、森のなかの高い木に、枝を組んだ大きな巣をつくります。巣は地上から12〜30メートルもの高さにかけられることがあります。産む卵はふつう1個で、まれに2個です。抱いて温めるのは主にメスの役割で、その間はオスが獲物を運びます。ヒナは1羽だけ育つことが多く、巣立ちまでには長い時間がかかります。繁殖は毎年ではなく、1年おきになることも多いです。子どもがなかなか増えないことは、この鳥の保全を難しくしている一因です。

イヌワシとの違い
森のクマタカ、開けた山のイヌワシ
クマタカは、同じ山地に暮らすイヌワシとよく比べられます。どちらも大型ですが、暮らす場所や姿は対照的です。
| クマタカ | 山地の森の中。翼が幅広く尾が長い。頭に冠羽。成鳥の目は黄色 |
|---|---|
| イヌワシ | 開けた斜面や崖のある山。翼が細長い。後頭部が金色がかる |
| ノスリ | 全長50cm前後と小さめ。人里近くにも現れ、腹は白っぽい |
クマタカは森の上を幅の広い翼で舞い、その翼の先は指のように開いて見えます。イヌワシは、開けた尾根や崖の上を、細長い翼で滑るように飛びます。森の中で暮らすクマタカと、開けた山で暮らすイヌワシとでは、生活の場そのものが異なります。

会える場所と観察
山の森と、動物園
野生のクマタカは、山地の深い森に暮らすため、姿を見るのは簡単ではありません。数の少ない鳥でもあり、山中でその姿を目にする機会は多くありません。国内希少野生動植物種に指定されているため、捕まえたり飼ったりすることはできません。ペットとして売買される鳥でもありません。いくつかの動物園では飼育されており、間近でその大きさや冠羽を観察できます。
減りゆく森の王者
絶滅危惧種としてのクマタカ
クマタカは1993年に国内希少野生動植物種に指定され、環境省のレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類(EN)とされています。森林の伐採や開発で狩り場が減り、近年は繁殖に成功するつがいの割合が下がっていると報告されています。もともと子どもの数が少ない鳥のため、環境の変化の影響を受けやすいと考えられています。クマタカが暮らせる森は、多くの生き物を育む豊かな森でもあり、その保全は森全体を守ることにつながります。
※ 絶滅危惧ⅠB類(EN)とは、近い将来、野生での絶滅の危険性が高いと評価された区分です。
クマタカの豆知識
森の豊かさをはかるものさし
クマタカは、広い森と豊富な獲物がなければ暮らせません。そのため、クマタカが暮らすことは、その森が豊かであることのしるしです。開発の計画では、クマタカの生息が確認されると、環境への配慮が求められることがあります。クマタカが暮らせるかどうかは、その森が健全かどうかを映す物差しです。
空にひびく高い声
ふだんは静かなクマタカも、繁殖期にはよく鳴きます。「ピックィー」と聞こえる高くよく通る声で、森の上空を飛びながら鳴くことがあります。春には、翼を震わせながら波を打つように上下するディスプレイ飛行を見せ、縄張りやつがいの結びつきを確かめます。ふだんは姿を見せないこの鳥にとって、繁殖期の声は、その存在を外に知らせる数少ない手段の一つです。
広い縄張りとつがい
クマタカのつがいは、広い縄張りを長く守って暮らします。ひとつのつがいが使う範囲は数十平方キロメートルにおよぶこともあり、そのなかで営巣と狩りを続けます。長年連れ添うことが多い一方、相手を変えて繁殖した例も観察されており、その暮らしには分かっていないこともまだ残されています。広い森を必要とするこの鳥にとって、まとまった森が失われることは、縄張りそのものを失うことを意味します。



参考
- English Wikipedia「Mountain hawk-eagle」(分類・形態・食性・保全)
- ウィキペディア「クマタカ」(日本の分布・保護・和名の由来・繁殖)
- IUCN Red List「Nisaetus nipalensis」(保全状況の評価=準絶滅危惧)
画像の出典
- アイキャッチ(とまる成鳥):Supratim Deb, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- 冠羽(顔):Jagdish Singh Negi, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- 飛翔(翼指):Lip Kee Yap, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
- 若い個体:Supratim Deb, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- 飛翔(全身):Wich’yanan L, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- とまる姿:Jagdish Singh Negi, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons


