ヤマアカガエルは、本州・四国・九州の山地の森に暮らす日本固有のカエルです。冬眠から目覚めてすぐ、まだ雪が残る2〜3月の水辺で一気に卵を産み、産卵を終えるとまた冬眠に戻ることでも知られます。よく似たニホンアカガエルとは背中の隆起線の曲がり方で見分けられ、平地に多いニホンアカガエルに対して山地寄りを好む種として位置づけられています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:両生綱 Amphibia
- 目:無尾目 Anura
- 科:アカガエル科 Ranidae
- 属:アカガエル属 Rana
- 種:ヤマアカガエル Rana ornativentris(Werner, 1903)
和名・英名
- 和名:ヤマアカガエル(山赤蛙)
- 英名:Montane Brown Frog/Japanese Mountain Brown Frog
- 近縁種:ニホンアカガエル(Rana japonica)
学名の由来
属名 Rana はラテン語で「カエル」を意味する古い名前で、ヨーロッパ産のヨーロッパアカガエル(Rana temporaria)と同じ属です。種小名 ornativentris はラテン語で「装飾された腹」を意味し、腹面に散らばる黒褐色の斑点にちなむとされます。和名の「ヤマアカガエル」は、平地寄りに分布するニホンアカガエル(アカガエル)と対比して山地に多いことに由来します。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 頭胴長 オス4.2〜6.0cm/メス3.6〜7.8cm(メスがオスより大型) |
|---|---|
| 分布 | 日本固有種。本州・四国・九州・佐渡島に分布 |
| 生息環境 | 低山〜山地の広葉樹林・混交林・水田・池沼・湿地・渓流のほとり。平地よりも山地寄りを好む |
| 食性 | 肉食(昆虫類・ミミズ・ナメクジなど)。晩春から秋にかけて林床で採餌 |
| 繁殖 | 1〜4月(ピーク2〜3月)に集中産卵。1回に1,000〜1,900個の卵。幼生は6〜8月に変態 |
| 寿命 | 成体で4〜5年 |
| 保全状況 | IUCNレッドリスト:LC(軽度懸念)/日本の複数都府県で絶滅危惧に指定 |
姿と体色

ヤマアカガエルは中型のアカガエル科で、背中は赤褐色から暗褐色まで個体によって幅があります。落葉に紛れる保護色でありながら、腹面には黒褐色の斑点が散らばり、種小名 ornativentris(装飾された腹)の由来にもなっています。
褐色〜赤褐色の背中
個体差に富む体色
背中の色は褐色・赤褐色・暗褐色まで個体差が大きく、生息地の土や落葉の色合いにあわせて溶けこむような色調をとります。四肢と背中には不規則な暗色の斑点が散り、上から見下ろすと林床の枯葉と見分けが付きにくいほどです。腹面は淡黄色で、下顎の縁には大きな黒褐色の斑があります。
雌雄の大きさ
アカガエル科の多くと同じく、雌の方が雄より大きく育ちます。雄は頭胴長4.2〜6.0cm、雌は3.6〜7.8cmで、繁殖に多くの卵を抱えるためのサイズ差といわれます。雄の前肢の親指の付け根には繁殖期に婚姻瘤(こんいんりゅう)と呼ばれる黒い突起が発達し、雌を抱きしめる際の滑り止めになります。
雪解け前に集中する繁殖

ヤマアカガエルの繁殖でよく知られているのは、まだ寒い1月から4月にかけての早い時期に集中して産卵することです。冬眠から目覚めた個体が水辺に集まって一気に交尾と産卵をすませ、終わったあとに再び冬眠に戻る個体も観察されます。
冬眠から目覚めての産卵
1〜4月の一斉産卵
産卵期は1月から4月にかけてで、ピークは2〜3月です。まだ他のカエルが冬眠から出てくる前の水辺で、雄は「キャララッ・キャラララッ」と鳴いて雌を呼びます。抱接の姿勢のまま水中の枝や落葉に1,000〜1,900個の卵をまとめて産みつけ、卵はゼリー状のかたまりで水底の物にくっつきます。数週間から1か月ほどで孵化し、オタマジャクシが出てきます。
産卵後の再度の冬眠
本種の変わった行動として知られるのが、産卵を終えた成体が再び土に潜って冬眠に戻る「再冬眠」です。まだ気温が低く昆虫などの餌が少ない時期に地表で活動しても消耗するだけなので、繁殖だけを先に済ませて、餌が出そろう晩春まで再び眠るという戦略です。近縁のニホンアカガエルにも同じ行動が知られ、アカガエル属の早春繁殖種に共通する暮らし方とされます。
卵塊とオタマジャクシ
ヤマアカガエルの卵塊はメロンパンのように盛り上がった塊で、水底の枝や落葉にしっかり固定されています。1つの水たまりに複数の雌が産卵することも多く、大きな卵塊がいくつも並んで水底を覆う光景が里山の早春の風物として知られます。孵化したオタマジャクシは水草や落葉の間で藻類や有機物を食べて育ち、6〜8月に上陸します。上陸直後の子ガエルは1cm前後と非常に小さく、雨のあとの林床に群れて散らばる姿がしばしば観察されます。
山地の森で暮らす

繁殖期以外のヤマアカガエルは水辺から離れた森の中で過ごします。名前の通り平地より山地寄りの森を好み、標高数百m〜1,500m前後の混交林で観察されることが多い種です。
落葉層と水辺を行き来する
日中は落葉の下・倒木の裏・岩の隙間などに潜み、夜間や雨のあとに地表に出て採餌します。繁殖期には水辺に集中しますが、それ以外の季節は水辺から数百m離れた斜面の森でも観察され、繁殖と越冬・採餌で場所を使い分けます。冬の間は落葉の下や土中でじっと過ごし、水中で冬眠することは少ないとされます。
食性
肉食性で、地表の昆虫類(ハエ・ゴミムシ・ハネカクシなど)・クモ・ミミズ・ナメクジなどを幅広く食べます。餌の少ない冬前後は活動を落として消耗を抑え、晩春から秋の間に集中して採餌します。他の中型のカエル類と同様、獲物を目で見つけて舌を素早く伸ばして捕らえる採餌スタイルです。
ニホンアカガエルとの識別

ヤマアカガエルはよく似た近縁種のニホンアカガエル(Rana japonica)と混同されやすく、両種の見分けはアカガエル観察の基本課題の一つです。決定的な違いは背中を走る隆起線(背側線)の形にあります。
背側線の曲がり方
鼓膜の後ろで外側へ曲がる
両種の背中には目の後ろから腰にかけて2本の隆起線(背側線)が走っています。ヤマアカガエルではこの線が鼓膜の後ろで外側に大きく曲がり、体側の縁近くまで迂回する形で走ります。一方ニホンアカガエルの背側線は鼓膜の後ろでもほぼ真っすぐで、外側への曲がりが目立ちません。この違いは背中側から見れば一目で分かる差で、両種の識別の第一手がかりとされます。
下顎の黒斑と鳴き声
ヤマアカガエルの下顎の縁には大きな黒褐色の斑があり、ニホンアカガエルにはこれが目立ちません。鳴き声もヤマアカガエルの「キャララッ・キャラララッ」に対しニホンアカガエルは「キョッキョッ」と短めの声で、慣れれば声だけでも見分けができるようになります。分布も本種が山地寄り・ニホンアカガエルが平地寄りと棲み分けているため、標高でおおまかな見当が付くとされます。
都道府県レベルで絶滅危惧

IUCNレッドリストではLC(軽度懸念)で、種としての絶滅の危険は今のところ低い水準です。ただし日本国内では複数の都府県でレッドリスト指定を受けており、特に東京都・神奈川県など都市化の進んだ地域では個体数の減少が目立っています。
湿地・水田の減少
本種の産卵にはまだ寒い早春の浅い水たまりが必要で、里山の湿地や冬期湛水(とうきたんすい)を続ける水田がこの役割を担ってきました。乾田化(冬に水を抜く水田化)・耕作放棄・宅地化により、これらの産卵場所は各地で急速に姿を消しつつあります。産卵水域が失われると、繁殖能力を持つ成体がいてもその年の産卵と幼生の育ちが途切れることになり、地域個体群の断絶が起こります。
保全の現状
保全策としては、冬期湛水水田の維持・ビオトープ整備・産卵地の保護柵の設置などが行政と市民団体の両方で取り組まれています。近くに山があり水田がある里山環境の保全がヤマアカガエルの生息に直結するため、田んぼ1枚を残すことが1つの繁殖地を守ることにつながるとされ、身近な保全の対象種として位置づけられています。
関連ページ




参考
- IUCN Red List Rana ornativentris(LC評価・分布と生息地)
- Wikipedia (ja)「ヤマアカガエル」(早春繁殖・ニホンアカガエルとの識別)
- Wikipedia (en)「Rana ornativentris」(形態・繁殖)
- AmphibiaWeb Rana ornativentris(形態と生態)


