モツゴは、体長6〜10cmの小型淡水魚で、コイ科モツゴ属に分類されます。学名は Pseudorasbora parva。日本では関東〜九州の池や河川の下流部に広く分布し、口が上向きに突き出す独特な形から「クチボソ」の別名で親しまれています。
ふだんは水面付近を群れで泳ぎ、水面に落ちた小さな昆虫や藻類を食べる雑食性の魚です。繁殖期にはオスが石や貝殻に卵を産みつけて守る子育て行動で知られ、日本の身近な小魚として観察や飼育の対象にもなっています。一方で、日本原産でありながらヨーロッパでは侵略的外来種として問題化しており、EUの外来種規制対象種に指定されている二面性のある魚でもあります。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:条鰭綱 Actinopterygii
- 目:コイ目 Cypriniformes
- 科:コイ科 Cyprinidae
- 属:モツゴ属 Pseudorasbora
- 種:モツゴ Pseudorasbora parva
和名・英名
- 和名:モツゴ(持子/持護)
- 別名:クチボソ/ヤナギモロコ/ムギクサ
- 英名:Topmouth gudgeon(トップマウス・ガジョン)/Stone moroko
別名と名前の由来
- 和名「モツゴ」:語源は諸説あり、オスが子(卵)を守る習性から「持子(もつこ)→もつご」と転じたとする説と、群れ(藻)で子を作る「藻つ子」から転じたとする説が知られています。
- 別名「クチボソ」:口が細く上向きに突き出す姿から。関東地方でよく使われる呼び名で、釣り人の間では和名より通用します。
- 英名「Topmouth gudgeon」:直訳すると「上向きの口のカマツカ類」。gudgeon はヨーロッパのコイ科の小魚を指す言葉で、口の位置(top mouth=上向き)を強調した命名です。
- 属名 Pseudorasbora:ギリシャ語の「偽の(pseudo-)+ Rasbora(東南アジアのコイ科小魚の属名)」の意味。「ラスボラに似ているが別のもの」を表します。
- 種小名 parva:ラテン語で「小さい」の意味。コイ科の中でも体が小さい種であることに由来します。
大きさ・生息などの基本データ
| 大きさ | 全長 約6〜10cm(オスは繁殖期に11cm程度まで成長する例もある)/体重 数g〜20g程度 |
|---|---|
| 体色 | 背側が暗い灰褐色/体側は銀白色で中央に暗色の縦帯(若魚で目立ち成魚では薄れる)/繁殖期のオスは全身が黒くなり頭部に白い追星(結節)が現れる |
| 分布 | 日本の在来分布:関東地方以西の本州・四国・九州/原産地:東アジア(日本・中国東部・朝鮮半島・台湾・ロシア極東)/移入分布:ヨーロッパ・北アメリカ・北アフリカ・オセアニアなど広範囲 |
| 生息環境 | 流れの緩やかな川の中〜下流域/湖沼/ため池/用水路/水草が茂る浅い水域を好む/低酸素や水温変化にも比較的強い |
| 食性 | 雑食性/水生昆虫の幼虫/甲殻類/動物プランクトン/藻類/魚卵/落下昆虫/飼育下では人工飼料もよく食べる |
| 繁殖 | 4〜7月に繁殖/オスがなわばりを持ち、石・貝殻・水草の茎など硬い基質に卵を産みつけさせる/卵は約1週間で孵化/オスが卵の世話をする |
| 寿命 | 野生で約3〜5年/飼育下では6年程度の記録もある |
| 保全状況 | 原産地では広く普通に見られる/IUCN:LC(軽度懸念)/ヨーロッパでは侵略的外来種としてEU外来種規制対象種に指定 |

「クチボソ」の名の由来─上向きの口が水面の餌を捕る
口が上向きに開く独特な形
水面採食に適応した口
モツゴの最大の特徴は、口が細く上向きに突き出していることです。多くのコイ科の魚は口が体の前方または下向きにありますが、モツゴは口の位置が体の上寄りにあり、開くと真上を向く形になります。この形は水面に落ちた昆虫や水面近くを漂う小さな餌を効率よく捕えるための適応と考えられています。
関東の別名「クチボソ」
この上向きで細い口の形から、関東地方では和名の「モツゴ」より「クチボソ」の呼び名が定着しています。とくに釣りや小魚採集の分野では、モツゴと言うより「クチボソを釣った」の方が伝わる場面が多く、地域の川魚図鑑でも並記される呼称です。
雑食性で何でもよく食べる
モツゴは雑食性で、水生昆虫の幼虫・小型甲殻類・動物プランクトン・藻類・魚卵・落下昆虫まで幅広く食べます。この幅広い食性が生息域の広さと繁殖力の強さを支え、移入先で外来種化しやすい要因の一つになっていると考えられています。飼育下では市販の金魚用・熱帯魚用の人工飼料もよく食べ、餌付けは容易です。

似た小魚との見分け方─タモロコ・カワムツとの違い
タモロコとの違い
口の位置と口ひげで見分ける
モツゴと最もよく混同されるのがタモロコです。両者は同じコイ科の小型魚で似た環境にすみ、体長も6〜10cmと重なりますが、見分けの決定打は口ひげの有無です。
| 比較項目 | モツゴ | タモロコ |
|---|---|---|
| 口ひげ | なし | あり(1対の短いひげ) |
| 口の位置 | 上向き | やや下向き |
| 体側の縦帯 | 若魚では明瞭 | 成魚まで明瞭に残る |
| 体型 | 細長い | やや寸胴 |
カワムツ・オイカワとの違い
カワムツやオイカワとも小型淡水魚として並べられることがあります。ただし体長で明確に区別できます。カワムツは15cm前後、オイカワは10〜15cm程度まで成長し、両者はモツゴより一回り以上大きく育ちます。またカワムツは体側に太い暗色の縦帯が1本、オイカワは繁殖期のオスが虹色の婚姻色に染まる派手さがあり、地味なモツゴとは印象が大きく異なります。

オスが卵を守る子育て─なわばりと追星
石や貝殻に産みつける
モツゴの繁殖は4〜7月に集中します。オスは川底の石や貝殻・水草の茎などの硬い基質にメスを誘い、そこにメスが卵を産みつけて授精させる方式です。1回の産卵で数百個の卵が付着し、繁殖期を通じて何度も産卵行動が繰り返されます。
オスは全身が黒くなり追星が出る
婚姻色と結節(追星)の意味
繁殖期のオスは全身が黒っぽく変化し、頭部の吻端や鰓蓋あたりに白い硬い突起(結節・追星)が現れます。この追星はメスへのアピールと、なわばりに侵入する他のオスとの闘争に使う武器の役割があると考えられています。追星は繁殖期が終わると消え、地味な非繁殖体色に戻ります。
卵を守るオスの世話
産卵後はオスが卵の世話をします。卵の周りにいて外敵を追い払い、鰭で水流を送って新鮮な酸素を供給する行動が観察されるほか、約1週間で孵化するまでオスは卵を守り続けるとされます。この「オスの子育て」が、モツゴ(持子=子を持つ)の和名の由来の一つと言われる理由になっています。
ヨーロッパでは侵略的外来種─EU外来種規制対象
コイの稚魚に紛れて拡散した経緯
日本では在来種のモツゴですが、ヨーロッパでは深刻な侵略的外来種として問題視されています。1960年代にルーマニアへ養殖コイの稚魚と一緒に持ち込まれたのが初期の記録で、そこからヨーロッパ全域に急速に拡散しました。現在ではヨーロッパ約30か国で確認され、EU外来種規制(EU Regulation 1143/2014)の対象種リストに掲載されています。
被害の内容
在来魚の卵や稚魚を食べる
モツゴは雑食性で、在来種の魚卵や稚魚も食べます。繁殖力が強く低酸素にも強いため、移入先で急速に個体数を増やし、在来の小型魚類の資源に競合的な圧力をかけていると報告されています。
魚類疾病の媒介
さらにモツゴは、ロゼッタ・アグネス(Sphaerothecum destruens)と呼ばれる魚類の病原体を保有していることが確認されています。この病原体はモツゴ自身にはあまり影響を与えませんが、ヨーロッパ在来のコイ科魚類に感染すると高い致死率を示すことがあり、間接的な生態系被害の要因になっています。
飼育と釣り─身近な小魚として
飼育のしやすさ
モツゴは水質・水温の変化に比較的強く、飼育しやすい淡水魚として知られます。飼育のポイントは次のとおりです。
- 水槽サイズ:60cm水槽で5〜10匹程度が目安
- 水温:10〜28℃の範囲で問題なく飼育できる
- 餌:金魚用・熱帯魚用の人工飼料でよく食べる/冷凍アカムシも好む
- 混泳:同サイズの温和な淡水魚となら可能(大型魚とは食べられるので不可)
- 繁殖:産卵床として石や陶器の破片を入れると産卵行動が観察できる場合がある
タナゴ釣りの外道としても定番
関東地方の小物釣り(タナゴ釣り・小鮒釣り)では、モツゴ(クチボソ)は餌によく反応する「定番の外道」として知られます。針は極小のタナゴ針、餌は黄身練りやアカムシで、公園の池や用水路でも手軽に釣れる魚です。子どもの川遊びや自然観察の入口としても親しまれています。

関連







参考
- Wikipedia日本語版: モツゴ
- IUCN Red List: Pseudorasbora parva (LC)
- FishBase: Pseudorasbora parva
- EASIN (EU外来種情報システム): Pseudorasbora parva


