イカは、タコと並ぶ頭足類の代表グループです。細長い胴の後端に三角形のひれを持ち、8本の腕と2本の触腕でエビや小魚を捕らえます。日本近海だけで50種以上が知られ、深海の巨大種から沿岸の小型種、発光や色変化で名高い種まで多様な暮らしぶりが見られます。
分類と学名
頭足類の中のイカ
- 界:動物界 Animalia
- 門:軟体動物門 Mollusca
- 綱:頭足綱 Cephalopoda
- 亜綱:鞘形亜綱 Coleoidea(現生イカ・タコ全般)
- 上目:十腕形上目 Decapodiformes(10本の腕・触腕を持つ=イカ全般)
- 目:ツツイカ目(開眼目 Oegopsida・閉眼目 Myopsida)/コウイカ目 Sepiida/ダンゴイカ目 Sepiolida など
系統上の位置づけ
イカは8本の腕と2本の触腕(計10本)を持つ十腕形上目に属します。同じ頭足類でも、腕が8本しかない八腕形上目のタコ類とは別系統です。現生の頭足類ではイカ・タコ以外に、殻を持つオウムガイの系統も生き残っています。分類名としての「イカ」は一つの目でまとまるのでなく、ツツイカ目・コウイカ目・ダンゴイカ目などにまたがる十腕形類の通称として、商業・生態の場で広く用いられます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 外套長 1cm前後(ヒメイカ)~13m以上(ダイオウホウズキイカ) |
| 分布 | 全海洋(表層から水深3,000m級の深海まで) |
| 生息環境 | 沿岸浅海・外洋・深海と各層で種ごとに分化 |
| 寿命 | 約1年(小~中型)/最大3~5年(コウイカ・大型深海種) |
| 食性 | 肉食(小魚・甲殻類・小型イカを腕と触腕で捕食) |
| 日本近海の種数 | 約120種(全世界では500種以上) |
| 主な天敵 | マッコウクジラ・大型魚・鰭脚類・海鳥 |
イカとタコの違い
Hans Hillewaert, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
腕の数と体の形
もっとも分かりやすい違いは付属肢の数と体形です。イカは腕8本+触腕2本の計10本、タコは腕8本のみ。イカの触腕は他の腕より長く先端に吸盤が集中していて、獲物を捕らえるときに素早く伸ばして絡めとります。胴はイカが細長い流線形、タコが袋状で丸みを帯びます。イカには胴を支える内殻(甲またはペン)があり、タコにはこれがありません。
暮らし方の違い
イカは基本的に遊泳性で、外套膜から海水を噴射しながら海中を泳ぎ回ります。タコは底生性で、岩陰や巣穴に潜んで待ち伏せる暮らし方が主流です。寿命はイカが1年前後の短命種が多く、タコの一部は数年生きます。イカは短い命の代わりに一度に大量の卵を産む戦略を取り、タコは少数の卵を長期間守り抜く戦略を取るとされます。八腕形類側の全体像はタコ【総合】に整理されています。

タコ【総合】
タコは、8本の腕を持つ、海にすむ軟体動物のなかまです。世界には約300種が知られています。身近なマダコやミズダコから、猛毒のヒョウモンダコ・擬態の名人ミミックオクトパス・深海のメンダコまで、その姿はさまざまです。体の色を変え、道具を使うほど...
体色変化と発光
色素胞による瞬時の変色
イカは皮膚に無数の色素胞(クロマトフォア)を持ち、神経で細胞を伸縮させることで体色を秒単位で変化させます。求愛の縞模様・威嚇のフラッシュ・周囲に溶け込む保護色と、状況に応じて模様を切り替える能力は頭足類共通の特徴です。とくにコウイカ類の変色はダイナミックで、同じ個体の左右で違う模様を出す例が知られています。
光を放つ深海のイカ
深海性のイカには発光器を持つ種が多くいます。腹側に発光器を並べて海面からの光に体を溶け込ませるカウンターイルミネーション、腕先の強い光で外敵を惑わせる型など、光の使い方は種によって異なります。日本の沿岸で群れて光るホタルイカや、深海の巨大種ダイオウホウズキイカはその代表です。
代表的な種
Nhobgood, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
アカイカ科・大型のツツイカ
外洋を高速で回遊する大型のツツイカ類です。日本の食卓を支える主要食用種と、世界最大級の巨大種を含みます。

スルメイカ
スルメイカは、日本の食卓でいちばん馴染み深いイカです。北の海を大群で回遊し、寿命はわずか1年。刺身・塩辛・するめの原料として古くから親しまれてきました。近年は不漁が続き、資源管理の対象にもなっています。分類と学名分類階層界:動物界 Anim...

アカイカ(ムラサキイカ)
アカイカ(ムラサキイカ)は、太平洋・大西洋・インド洋の亜熱帯から温帯外洋に広く暮らす大型のイカです。「アカイカ」は標準和名、「ムラサキイカ」は市場や漁業者のあいだで使われる別名で、どちらも同じ Ommastrephes bartramii ...

フンボルトイカ(アメリカオオアカイカ)
アメリカオオアカイカ(英名フンボルトイカ)は、東太平洋の深海に住む世界有数の大型イカです。外套長1.75m・体重50kgに達し、体を濃赤紫から白まで瞬時に変色させる派手さと、群れで襲う獰猛な食性で知られます。スペイン語圏では「Diablo ...

ダイオウイカ
ダイオウイカは、深海にすむ巨大なイカです。長い触腕をふくめると、全長は12mをこえることもあります。バスケットボールほどもある大きな目や、かぎのついた吸盤を持ちます。生きた姿がはじめて撮影されたのは、ようやく2012年のことでした。分類と学...

ダイオウホウズキイカ
ダイオウホウズキイカは、南極海の深海に住む世界最重量のイカです。体重は495kgの記録があり、無脊椎動物として現存最大クラス。目の直径は最大40cmと動物界で最大級で、腕と触腕には回転式の鉤爪がずらりと並びます。マッコウクジラの主要な獲物で...
ヤリイカ科・沿岸の食用種
眼が薄い膜で覆われる閉眼類のグループで、日本の沿岸でとくに馴染みの深い高級食用イカが揃います。細長く尖った胴と透明感のある白身が特徴です。

ヤリイカ
ヤリイカは、日本近海の沿岸に広く分布するイカ科の代表種です。細長く尖った槍のような体形が名の由来で、春の刺身や寿司ネタとして高値で扱われます。二型の雄が異なる交尾戦略を持つことや、神経科学のモデル生物として長く用いられてきた研究史でも知られ...

ケンサキイカ
ケンサキイカは、剣のように尖った胴で日本各地の食卓を彩る高級イカです。青森から九州までの日本海・東シナ海が主漁場で、佐賀県唐津の「呼子イカ」、山口県萩の「須佐男命イカ」などご当地ブランドとして親しまれています。乾物のうち最上級とされる「一番...

アオリイカ
アオリイカは、胴長40〜50cmに達する日本沿岸最大級のイカで、胴の縁を1周する半円形の大きなひれが目立ちます。春から夏にかけて沿岸の海藻の陰に卵鞘を産みつけ、寿命は約1年。エギング釣りの代表的な対象魚で、遊離アミノ酸が国産イカの最高水準に...
コウイカ科・甲を持つイカ
胴の中に石灰質の内殻(甲)を持つグループで、体は幅広く、ひれが胴の両側を縁取ります。皮膚の色素胞が発達していて、複雑な模様や色を素早く切り替える能力に長けています。

コウイカ
コウイカは、日本近海の砂泥底に暮らす中型のコウイカ類です。外套膜の中に石灰質の「甲(cuttlebone)」を持つことが和名の由来で、東シナ海から関東以西の内湾に広く分布しています。市場では「マイカ」「スミイカ」「ハリイカ」「モンゴウイカ」...

カミナリイカ
カミナリイカは、日本近海に住む大型のコウイカ類です。背中に並ぶ稲妻状の模様と丸い斑紋から名づけられ、市場では「モンゴウイカ」「紋甲いか」の名で寿司ネタや刺身として親しまれています。ただし現在流通している「もんごう」の多くは別種で、本来のカミ...

シリヤケイカ
シリヤケイカは、東京湾など日本沿岸の内湾で見られる中型のコウイカ類です。関東では春の代表的な釣り物として知られ、産卵のために浅場へ集まる4〜6月には堤防や船釣りで大いに賑わいます。和名の「シリヤケ」は、尾部の腹側に赤褐色の液を出す腺孔があり...

ヨーロッパコウイカ
ヨーロッパコウイカは、ヨーロッパで最も知られた大型コウイカです。学名 Sepia officinalis の Sepia は色の名「セピア」の語源で、内臓の墨嚢から採れる濃い茶色の顔料がその由来です。地中海・北海・バルト海の沿岸にすみ、瞬時...

コブシメ
コブシメは、沖縄や八重山諸島のサンゴ礁に暮らす大型のコウイカ類です。外套長は50cm、体重は10kgにも達し、オーストラリアの巨大コウイカ Sepia apama に次いで世界で2番目に大きなコウイカ類とされています。体色をリズミカルに流し...

ハナイカ
ハナイカは、体長4〜7cmの小さなコウイカです。鮮やかな黄と黒の斑模様と桃色の腕先が特徴で、その派手な体色から「花烏賊」と呼ばれてきました。日本近海の相模湾以南〜東シナ海に生息し、砂の海底を這うように移動する独特の暮らしをします。よく似た南...

ミナミハナイカ
ミナミハナイカは、体長6〜8cmの小さなコウイカで、腕を広げ体色を鮮やかに切り替える姿から「Flamboyant Cuttlefish(華やかなコウイカ)」の名で知られます。オーストラリア北部からインドネシア・フィリピンにかけての熱帯インド...
ダンゴイカ科・小型で丸っこい
胴が丸みを帯びた小型のイカで、耳のような形のひれが目立ちます。世界最小級のイカも含みます。

ミミイカ
ミミイカは、日本の内湾で見られる胴長わずか4cmほどの小型のイカです。丸い頭部の両側に半円形の大きな鰭を張り出し、その姿がまるで「耳」のように見えることが和名の由来になっています。昼は砂に潜り、夜になると出てきて小さな甲殻類を狩る臆病者です...

ボウズイカ
ボウズイカは、北太平洋の砂泥底で暮らす胴長わずか5cmほどの小型のダンゴイカ類です。丸くふっくらとした頭部とずんぐりした外套膜、大きな目の姿から「ボウズ(坊主)」の和名が付き、英名でも stubby squid(ずんぐりイカ)と呼ばれていま...

ヒメイカ
ヒメイカは、日本の沿岸のアマモ場に暮らす、外套長わずか1〜2cmのごく小型のイカです。頭足類のなかでも最小級とされ、背中には粘着細胞が集まった小さな吸着装置を持ち、アマモの葉にぺったりと張り付いて身を隠します。獲物であるエビの体内へ口を差し...
発光と特殊な暮らしの種
特定の科にまとめられない、独自の適応を進めたイカのなかまです。発光や大型化、独特の姿でよく知られています。

ホタルイカ
ホタルイカは、日本沿岸の深い海に暮らす小さな発光イカです。春になると富山湾に大群で押し寄せ、青白い光を放ちながら産卵に集まります。全身に散らばる約800個の発光器と、天敵から身を隠すための巧みな光の使い方で知られます。分類と学名分類階層界:...

ソデイカ
ソデイカは、日本近海に住む食用イカのなかで最大級の大きさに育つ大型のイカです。胴長は約1m、体重は20kg前後で、大きな個体では30kgに達するとされます。市場では「アカイカ」の名で流通し、回転寿司の白いイカとしてもよく目にする種です。ただ...
近縁の頭足類・オウムガイ
厳密にはイカと別の系統ですが、殻を持つ現生の頭足類として比較のうえで欠かせない存在です。イカ・タコが進化の過程で失った外殻を今も残す「生きた化石」として知られます。

オウムガイ
オウムガイは、南太平洋の深海に暮らす殻を持った頭足類です。イカやタコと同じ「頭足綱」に属しますが、殻を体外に持つ点や約90本もの触手・レンズを持たないピンホールカメラ式の目など、多くの原始的な形質を残していることから「生きた化石」と呼ばれて...
食文化
RuinDig/Yuki Uchida, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
刺身・寿司・煮物
日本ではイカは代表的な水産物のひとつで、種ごとに味と用途が使い分けられます。ヤリイカ・ケンサキイカ・アオリイカは刺身や寿司ネタとして高値で扱われ、透明感のある甘みが特徴です。スルメイカは総菜料理や塩辛に、コウイカやコブシメは煮物・焼き物に、それぞれの食感と甘みが活かされます。
Corpse Reviver, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
スルメと乾物
加工品としてのイカも歴史が古く、干して乾かしたスルメは保存食として広く親しまれてきました。ヤリイカとケンサキイカを最高等級とする「一番するめ」の呼び名や、富山湾のホタルイカを松の肥料に使った「マツイカ」の呼び名など、地域ごとに独自の使い方が発達しています。近年はホタルイカやアオリイカが観光資源としても注目されています。
研究と人との関わり
神経科学のモデル生物
イカは20世紀の神経生理学を大きく前進させた実験動物でもあります。ヤリイカやヨーロッパヤリイカが持つ「巨大軸索」は電極を直接刺せるほど太く、活動電位のしくみを解明したホジキンとハクスリーの古典研究に用いられました。日本ではヤリイカの人工飼育に松本元が1975年に世界で初めて成功し、海水魚飼育の基本技術の礎となっています。
資源と保全
スルメイカや太平洋のアカイカは、日本を含む北太平洋の主要な漁業資源です。海洋気候の変動で年ごとの漁獲量が大きく揺れることが知られ、水温や餌となる動物プランクトンの変化との関係が研究されています。一方でダイオウイカやダイオウホウズキイカのような深海の巨大種は、いまだ生態の全容が分かっていない部分が多く残されています。
参考
- ウィキペディア「イカ」(分類・生態・食文化の全体像)
- Wikipedia “Cephalopod”(頭足類の分類学と生態)
- 奥谷喬司 編著『日本近海産貝類図鑑』(東海大学出版会・2000)頭足類編(日本近海の種と分類)
- Nixon M., Young J.Z. (2003) “The Brains and Lives of Cephalopods” Oxford University Press(頭足類の神経系と行動)
画像出典